編集者(日本)

アイリスオーヤマのロボティクス事業部の責任者が語る「現場と社会課題から生まれたロボティクス戦略」

特集
2025年10月21日2分
Chief Information Officer

今回、「Leadership Live Japan」に出演するゲスト、アイリスオーヤマ株式会社の執行役員ロボティクス事業部 事業部長 兼 株式会社アイリスロボティクス 取締役社長の吉田豊氏をお迎えし、ロボティクス事業を統括する仕事観、やりがい、魅力などについて語ってもらいました。

アイリスオーヤマ
画像提供: CIO.com

縁が導いたキャリア:社会課題に挑むロボティクスの最前線へ

大学卒業後、ホテル業界に飛び込んだ私は、20代半ばで起業という道を選びました。その後も、外資系のペットフードメーカーやLED販売会社など、業界を問わず経営層に近い立場でさまざまな事業に携わってきました。

常にご縁を大切にしながら、多様なジャンルに興味を持ち、経験を積み重ねてきたことが、今の自分を形作っていると感じています。

アイリスオーヤマには、グループ会社であるアイリス電工の取締役として入社しました。その後、アイリスオーヤマがロボティクス事業に参入するタイミングで、同社の執行役員に就任し、同事業の統括を担当しました。

現在は、アイリスロボティクスの代表も兼任しています。

ロボットの企画・開発から製造・販売、アフターメンテナンスまでを一貫して担う体制を構築し、組織マネジメントや戦略立案・実行、経営層との連携を通じて、事業の推進に取り組んでいます。

私がロボティクスに強い関心を持った背景には、これからの日本社会が直面する深刻な課題があります。15〜20年後には、労働人口の約3割が不足すると言われています。そうした未来に向けて、ロボット技術を通じて社会に貢献できる可能性があると感じたことが、この分野に挑戦する大きな動機となりました。

スタートアップが苦戦する中で、なぜ私たちは立ち上げに成功したのか?

私がこれまでのキャリアの中で最も大きな実績だと感じているのは、「現在取り組んでいるロボティクス事業をゼロから立ち上げたこと」です。

サービスロボット市場には、スタートアップから大手企業まで多くのプレイヤーが参入していますが、立ち上げに苦戦している企業も少なくありません。そうした中で、私たちは投資を行い、アイリスオーヤマの強みであるダイレクトセールスの仕組みを活かしながら、現在、業務用清掃ロボットのベンダーで圧倒的なシェアを獲得しています。

さらに、ハードウェアだけでなく、ロボットの頭脳とも言えるOSや知能の部分まで自社で開発できる体制を整えることを目指しました。そのために、東京大学発のロボットベンチャー企業をグループ化し、技術力と開発力を強化。現在、頭脳の開発は進行中ですが、「ハードウェアからソフトウェアまでをフルスクラッチで開発し、一貫して生産できる体制」も徐々に整いつつあります。

製品の企画・開発から製造・販売、アフターメンテナンスまでを一気通貫で提供できるようになったことで、事業としての競争力が格段に高まりました。

この「ゼロからの挑戦」を形にできたことこそが、私自身のキャリアの中でも最も誇れる成果だと感じています。

誰もが無理だと思ったロボティクス事業を、どう立ち上げたか

私にとって最も大きなチャレンジは、やはり「ロボティクス事業の立ち上げ」でした。

この事業は私自身が提案したもので、最先端の領域である一方、当時の社内にはロボット開発の文化や前例がなく、参入に対しては多くの反対意見もありました。そうした中で、「ロボットをサブスクリプションで提供するビジネスモデル」を提案し、実際に導入したことは、非常に大きな挑戦だったと感じています。

特に事業の立ち上げ当初は、社内でロボット事業に対する理解がほとんどなく、関係部署との連携や調整には大変苦労しました。経営層は「人手不足の時代にロボットの重要性は間違いない」と理解してくれていましたが、関係部署の理解を得るには「実績を積み上げるしかない」という覚悟で取り組んできました。

その結果、現在では2年連続で業務用清掃ロボットのベンダーで圧倒的な市場シェアを獲得するまでに成長し、社内の目線も大きく変わってきたことを実感しています。かつては懐疑的だった人たちも、今ではロボティクス事業の可能性を信じ、共に前進してくれるようになりました。

もう一つのチャレンジは、「若手中心の組織で事業を創造している」ことです。

アイリスオーヤマは社員の平均年齢が若く、ロボティクス事業部でも新入社員を積極的に登用しています。日々、若手社員の育成に取り組みながら、同時に事業を成長させていくというのは簡単なことではありませんが、逆に若手から刺激やヒントをもらうこともあり、非常にやりがいがあります。

このように、「ゼロからの事業の立ち上げ」「若手育成と事業成長の両立」という複合的なチャレンジを乗り越えてきたことが、私にとって最大の挑戦であり、誇りでもあります。

知っていることと、できることは違う:ロボティクス事業で気づいた創業者としての覚悟

ロボティクス事業に取り組む中で、私が最も深く実感したことがあります。それは、「知っていることと、できることは違う」ということです。

当初は、過去の経験を踏まえればある程度は想定内で進められるだろうと思っていました。しかし、実際にゼロから事業を立ち上げてみると、思うように成長せず、事業が進まない場面も多々ありました。そんな時、会長からいただいたこの言葉が、私の考え方を大きく変えてくれました。

会長も実質の創業者、そして私もロボティクス事業の創業者です。

ゼロから始めるということは、現場の最前線まで自ら降りて指導し、育てていく覚悟が必要です。一般的な組織では、50代が40代に、40代が30代に仕事を任せるという階層構造があり、現場に深く関わることは難しいものです。

しかし、創業者だけは違います。ゼロから始めた人間だからこそ、現場に入り込み、育てることができるのです。

この言葉を通じて、「知っている」だけではなく、「できる」ようになるためには、自分自身が現場に立ち、実践し、失敗し、学び続けることが必要だと、心から理解することができました。

この気づきは、字面では簡単に見えるかもしれませんが、私にとっては非常に大きな学びであり、今の事業を進める上での一番のアドバイスとなっています。

より具体的なロボティクス事業部の責任者としての仕事観、やりがいや魅力に焦点を当て、リーダーシップやITリーダーへの効果的なアドバイスなど、吉田氏に話を聞きました。詳細については、こちらのビデオをご覧ください。

ロボティクス事業のやりがい、魅力について:誰もが苦戦する市場に挑戦し、先頭を走る面白さ

ロボティクス事業に取り組む中で、他社のスタートアップ企業の社長や、日本国内のロボット関連企業の方々と面談する機会がありました。皆さん口を揃えて言うのは、「この分野は非常に難しく、苦労している」ということです。

だからこそ私は、「自分は成功させてみせる」という強い想いを持って、この事業に挑戦しています。難しいからこそ、挑戦する価値がある。その面白さに惹かれたのです。

社会情勢を見ても、2025年度以降、日本の労働人口は減少していきます。これまでは女性、高齢者、外国人労働者などの雇用が増えていましたが、これからは待ったなしの状況です。

そんな中で、ロボティクス事業はまさに社会課題の解決に直結する領域であり、社会貢献にもつながる事業だと感じています。

現在、私たちは「業務用清掃ロボットのベンダーとしてシェアNo.1を取っている、そしてその先頭を走っている」という自負があります。ハードウェアからソフトウェア、そしてサービスまで一貫して提供できる体制を整え、若手社員とともに事業を創造しながら、日々成長を続けています。

この事業は、社会的にも意義があり、そして何より非常に魅力的で楽しい挑戦だと感じています。

ITリーダーを目指す心得とは?:目線を下げない、リーダーは現場に立つ

私がリーダーとして最も大切にしているのは、「目線を下げない」ことです。

どんなに足元で課題が起きても、リーダーが目線を下げてしまえば、部下はついてきません。だからこそ、どんな状況でも「必ず成功する」という姿勢を貫き、挑戦を続けることが重要だと考えています。

そのために、私は全国の営業所を自ら訪問し、社員一人ひとりと直接対話することを心がけています。自分の考えを伝えるだけでなく、社員の悩みや課題を聞き、モチベーションを最大限に引き出すことを意識しています。

例えば、朝6時の飛行機に乗って熊本の営業所に向かい、朝礼に間に合うように現地入りする。そうした行動も含めて、現場に寄り添う姿勢を見せることで、社員との信頼関係を築いています。話した内容はすべて日報に記録し、社内で共有することで、エンゲージメントを高める取り組みも行っています。

最近では、新卒社員に直接電話をかけることもありました。

ある営業所の新卒社員に私が電話をかけたところ、研修でたまたまその営業所に来ていた別の新卒社員がその場に居合わせたことがありました。後に、「自分には連絡が来ない(連絡してほしい)」と言われたのを覚えています。その反応を見て、私の電話一本で、こんなにもモチベーションの上げ下げに繋がるのかと、コミュニケーションの重要性を改めて実感しました。

こうした一つひとつの行動が、社員のモチベーションを高め、同じ船に乗って挑戦する仲間としての意識を醸成していくのだと思います。リーダーとして、目線を下げず、現場に向き合い続けること──それが、私の信念です。

ITリーダーを目指す人たちへのアドバイス:全部ダメじゃない。失敗の中に光はある

リーダーになるということは、ITであれ、事業であれ、まず「自分を信じること」が何よりも大切だと私は考えています。

人は常に目と耳が外に向いています。新しい事業やゼロイチの挑戦では、他人の意見や評価が気になり、「自分は間違っているのではないか」と不安になることもあります。そうした時に、自分を信じる気持ちが揺らいでしまうと、判断を誤り、方向性を見失ってしまうのです。

そしてもう一つ、失敗に対する向き合い方も大切です。

失敗を因数分解してみると、すべてが悪かったわけではなく、10のうち1つだけが問題だったということもあります。周囲の意見を聞きながら、その1つを修正すれば、残りの9はむしろ強みになる。そうした冷静な分析と前向きな姿勢が、リーダーには求められるのではないでしょうか。

自分を信じること。経験を信じること。そして、失敗から学び、前に進むこと。それが、ゼロから挑むリーダーに必要な覚悟だと思っています。

今後の展望、中長期的な取り組み:ロボットは売って終わりじゃない

現在、私たちのロボティクス事業は、業務用清掃ロボットを中心に全国6000社に導入され、累計1万6000台のロボットが稼働しています。これらは主にレンタル契約による提供で、必要な台数を必要な期間だけ利用できるサブスクリプション型のサービスです。

このモデルは、単なるハードウェアの販売ではなく、ロボティクス・アズ・ア・サービス(RaaS)として、導入後の運用支援やアフターメンテナンスまでを含めた包括的なサービスを提供しています。産業ロボットのように「売り切り」で終わるのではなく、生産性向上のノウハウをコンサルティングとして提供することで、顧客との信頼関係を築き、事業の成長スピードを加速させています。

ロボティクス事業における一般的な成長戦略の柱としては、以下の4つが挙げられます:

  1. ハードウェアの拡充
  2. 利用現場の拡大
  3. 関連ビジネスの展開
  4. AIソリューションの提供

当社もこれらの一般的な成長戦略は見据えていますが、特に日本市場では、導入後の運用・定着・メンテナンスが非常に重要視されているという背景があります。このことを踏まえ、単に「ロボットを売る」だけではなく、私たちはコンサルティングの面を強みとし、他社にはないサービス品質の高さを武器に、さらなる事業成長を目指しています。

お客様が本当に求めているのは、導入後の成果と安心感です。だからこそ、私たちは導入後の価値提供にこだわり抜くことで、ロボティクス事業の未来を切り拓いていきたいと考えています。

日本のエディトリアル・ディレクターとして、CIOのコンテンツキュレーション、カスタムコンテンツ、業界リサーチ、イベントなどを担当。また、CIOウェブサイトのビデオインタビューも担当しています

 

企業間コンピューティングからエンタープライズネットワーキング、ソフトウェア開発まで、さまざまなテクノロジー分野で豊富な経験を持つ。

 

日本企業が直面する問題や、CIOをはじめとするエグゼクティブのビジネス・技術領域について深い理解を持ち、ローカルマーケットに根ざした視点で編集コンテンツを制作している。 Foundry入社以前は、大手ローファーム、調査会社、コンサルティング会社にて、複数の異なる業種にわたる業務に従事。ビジネスとテクノロジー分野における彼の深い知識と経験は、CIOにさらなる編集上の価値をもたらすだろう。

 

 

As the editorial director for CIO Japan, Nobumasa Takeuchi is responsible for CIO's content curation, custom content, industry research, and events. He is also responsible for the video interviews for CIO Japan's website.

 

He has extensive experience in various technology fields, from business-to-business computing to enterprise networking and software development.

 

He has a deep understanding of the issues facing Japanese companies and the business and technical domains of CIOs and other executives, and produces editorial content with a local market-based perspective.

 

Prior to joining Foundry, he worked across multiple different industries at major law firms, research companies, and consulting firms. His deep knowledge and experience in the business and technology fields will bring additional editorial value to CIO.

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